「日本語が変」ってどういうこと?

国語・日本語教師によるブログ。教育トピックのほか、趣味のアート鑑賞についても書いています。HP…https://japabee.wixsite.com/japabee-japanese

吉田修一『パレード』を読んで

 この作品の舞台は、若い男女が5人集まって共同生活を送るマンションの一室だ。様々な職業に就いており、ものすごく話が合うわけでも、ものすごく仲が良いというわけではない。が、気まぐれにアドバイスを与え合い、助け合いながら生活している。干渉しすぎず適当な距離感を保つ毎日。理想的な共同生活だと感じる人もいるだろう。時おり若者特有のハイテンションな陽気さに包まれる彼らのやりとりには、笑ってしまうような微笑ましさがある。素直で気のいい大学生、良介を筆頭に、登場人物に感情移入しやすいのもこの作品の魅力だ。

 しかし、最後のページまで辿り着いたとき、この作品の読後感は、はっきり言って「恐怖」以外の何物でもない。「5人の関係が上手くいっている」というそのことに対して、あなたは思わず本を手から取り落とす程の気持ち悪さを覚え、戦慄するだろう。注意深い読み手ならば、一見明るく何気ない文章の中に、微かな不穏さが織り交ぜてあることに気がつくかもしれない。

 ホラーに最適なメディアはゲームである、とあるゲーム監督が言っていた。自らプレイすることで話を進めていくので、映画とは違って目を背けることができないからだそうだ。その点からすると、この作品の力はすさまじい。良介たちが生活しているマンションの一室に読み手を連れ込み、待ち構えている恐怖から逃げ出せないようにしてしまう。怖いものが好きな人は、ぜひ一回読んで筆者独特の親しみやすい文体に浸り、最終的にどん底に突き落とされてみてほしい。

 

パレード (幻冬舎文庫)

パレード (幻冬舎文庫)

 

 

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