「日本語が変」ってどういうこと?

国語・日本語教師によるブログ。教育トピックのほか、趣味のアート鑑賞についても書いています。HP…https://japabee.wixsite.com/japabee-japanese

ダフナ・ジョエル&ルバ・ヴィハンスキ『ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性』を読んで

 

 

「あなたが書くものはとても男性的ね。男性が書いた文章を読んでいるみたい。」

高校生の時、私が書いたレポートを読んで国語教師が呟いた。

その時既に、自分の頭の中身はいわゆる女性じゃないかもしれないと思っていたので、教師の指摘に対して、自分の本性を見抜いてもらったことへの安堵と、何とも言えない困惑とを同時に感じた。そして、自らの意思ではなく課されて書いた文章であっても、「自分」というものが露見してしまうことへの感嘆と畏怖とを覚えた。思えば人の書いた文章を読みあれこれ言う職業への道はこの時ひらけたのかもしれない。

 

まあそんな感じで、職業については割と早く方向性が定まったものの、「女性ではなく別物な気がする」性自認については中々受け入れられず、その後さんざん寄り道をしてしまった感がある。化粧やファッションに気を遣い「女らしく」なれば違和感が消えるのかと思っていた。全くそんなことはなかった。1990年代や2000年代は、今と違い、LGBTQという言葉が広く知られてはいなかったし、インターネットで気軽に性別違和診断を受けることもできなかった。調べようともしていなかったから、トランスジェンダー外来が存在していたかどうかも定かではない(話は逸れるが日本ではいまだに心療内科に通うことがあまり気軽に受け止められておらずそこも問題だとは思う)。

そして今、女性として生を受けたものの性自認としては女性ではない自分を受け入れながら、元々ない母性を虚空から絞り出して子育てをしている。

 

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ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性』という本によれば、性別は脳に影響を及ぼすが、「真の」男脳や女脳というものは存在しないという。ヒトの脳は女性的でも男性的でもない。それは女性的な特徴と、男性的な特徴から構成されるモザイクである。しかもそのモザイクは一生を通じて変化し続ける。大半の人が男または女の生殖器のみを持つのに対し、脳に性別を与えるとすると、大多数の人が「間性」になるという。

2017年にチャイルド・ディベロップメント誌に掲載された研究では、467人の男女の小学1年生、3年生、5年生に、「自分を自身のジェンダーに近いと感じるか、あるいは反対側に近いと感じるか」と尋ねたところ、30%が自身のジェンダーらしく感じると答えた一方で、約17%がどちらのジェンダーにも近いと思わないと答えた。

こうなってくるとそもそもジェンダーで分ける意義について疑問が生じるが、それに対し本書はこう述べる。

ジェンダーとは、各人に固有の資質を求めるのではなく、性別に意味を与え、男女に異なる役割、地位、権力を割り振る社会システムとして存在する。この社会システムは私たちの人生に多大な影響を及ぼし、人のモザイク集団を二分する。」

「子どもたちにジェンダーという情動の拘束衣を着せることで、権力に手を伸ばせない女性と、感情を見せることを許されない男性を育てあげている。」

 

ある大学で行われた研究によれば、男らしさの規範(①自信に満ち溢れていること②プレイボーイらしく振る舞うこと③女性を従わせること)に従うことを強要された男性は、そうでなかった男性に比べて、うつ病や薬物乱用に陥りやすく、心理学的な治療を自ら求めることが少ないという。

 

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ところで、本書で知り、とても勇気づけられたデータがある。

第一子を育てている異性愛カップルでは、父親と母親で脳活動のパターンがいくらか異なるのだが、子育てで主導的な役割を果たしているゲイの父親では、異性愛カップルの父親と母親双方に類似する脳活動パターンを示したという。つまり、研究に参加した男性は、子育て上の役割に影響を受け、脳が変化していたということになる。

 

先ほど書いた「ない母性を虚空から絞り出して子育てしている」という描写から、私の子育ての雰囲気が伝わってしまうことが懸念されるが、

性自認が男だろうが女だろうが、そこは脳のモザイクを変化させてでも、自分を作り変えてやるしかないだろう、という強い決意と戒めに導いてくれたのが本書だった。

女性らしくないから家事育児苦手なんだよね、とかもう言ってられないのである。そもそも女脳とか男脳なんてないんだし。

 

という訳で、そこに勇気づけられるか?という独特過ぎる観点でこのブログは終わるが、性別とジェンダーに対する固定観念に疑問を持っている人はぜひ本書を手に取ってみてほしい。自分の中にあるジェンダーバイナリーの偏見にも気づくことが出来る良書だと思う。

 

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